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スピンを楽しもう番外編  ~羽生結弦「バラード1番」レベル判定~

今回は番外編として、羽生結弦選手の2015-2016シーズン初戦オータムクラシック、ショートプログラム「バラード1番」のレベル判定をします。

オータムクラシック公式ページ
男子シングルSPプロトコル

スピンは三つ。昨シーズンと同じ、シット、キャメル、コンビネーションです。レベル構成も同じ。

一つ目のスピンはCSSp4(チェンジフットシットスピン)。足換えありのシットスピンです。
※略記号の後についている4という数字が獲得したレベルの数。

CSSp4
レベル1:難しい入り方

まず、頭とフリーレッグを振り子のように斜めに上下するイリュージョン(ウィンドミルとも言うが、開始時に使う場合はイリュージョンと呼ばれる方が多いかも)という技を入れて、ただちにスピンを開始します。

cssp1

テクニカルパネルハンドブックP13によると、「難しい入り方」として、

入り方がスピンのバランス、コントロール、実行にかなりの影響を与えるものでなければならない。
躊躇や遅延なく意図されたスピンの姿勢に達しなければならず、その姿勢で2回転保持しなければならない。


とあります。

イリュージョンから入ることは、「バランス、コントロール、実行にかなりの影響を与える」ので、難しい入り方であると見なされます。

が、ここですぐレベルが認定されるわけではありません

cssp2

このように、その後ただちにシットの基本姿勢を取って2回転することにより、「躊躇や遅延なく意図されたスピンの姿勢に達し」「その姿勢で2回転保持」の条件をクリアし、ここでようやく「スピンへの難しい入り方」が認定され、レベルが一つ獲れるのです。




レベル2:難ポジション(SF)

次に、上体を屈め、フリーレッグを前に位置するSF(シットフォワード)という難ポジションを取り、2回転します。
これでレベルが一つ獲れます。

cssp3



ここで足換えです。
足換えのあるスピンでは、片方の足で獲れるレベルは二つまでと決まっています。
右足でレベルを二つ獲ったので、今度は左足に軸足を換えるわけです。

cssp4


レベル3:難ポジション(SS)

上体をひねり、フリーレッグを横に位置するSS(シットサイドウェイズ)という難ポジションで2回転します。
これでレベルが一つ獲れます。

cssp5


レベル4:難ポジション(SB)

今度は上体を屈め、フリーレッグを後に位置するSB(シットビハインド)という難ポジションで2回転します。
これでレベルが一つ獲れます。

cssp6


以上でレベル4になります。

ちなみにどの姿勢においても、バランスを維持するのが難しかったり、柔軟性を要求される姿勢でないと難ポジションとして認定されませんが、シットならフリーレッグの位置、キャメルなら肩のライン、アップライトなら上体の位置などとカテゴリは分かれているものの、それ以外は決まった姿勢があるわけではありません。
姿勢は選手によっていろいろ違います。その個性を楽しむのがフィギュアスケートの醍醐味ですね(*^.^*)

動画はこちら→Yuzuru Hanyu SP+kiss&cry Autumn Classic International 2015
クリックすると、このスピンのところから再生されます。


プロトコルを見ると、Base Value(基礎点)が3.00、ジャッジのつけたGOE(出来映え点)が左から2 2 2 3 3 2 2
(主要大会のジャッジは9名ですが、それより小さな大会なのでジャッジは7名です)

最高点の3と最低点の2をそれぞれカットし、残った5人分のGOEを「コミュニケーション」P4のSOV(価値尺度)に換算します。

プロトコル
cssp_pクリックで拡大します

コミュニケーション
cssp_comクリックで拡大します


SOVを全部足してジャッジの数5人で割ると、(1.0+1.0+1.5+1.0+1.0)÷5=1.10
最終的なGOE1.10が出ます。
基礎点3.00+GOE1.10=4.10がこのスピンの得点です。

ジャッジが付けた個別GOEの2 2 2 3 3 2 2を、あなたならどう見ますか?
羽生選手のGOEは点数が出すぎだと批判する人がいますが、本当でしょうか。

「コミュニケーション」にGOE採点のガイドラインが載っています。
P12がプラスのガイドライン、P14がマイナスのガイドラインです。
P12にある注意点を要約すると、このようなことが書かれています。

・プラス面およびマイナス面の両評価によって最終的なGOEを決定する。
・重要なことは、最終GOEにエラーによる引き下げだけではなく、プラス面が反映されていることである。
まず初めにプラス面を考慮し、これがGOE評価の起点となる。次にエラーのガイドラインに従って引き下げを行い、最終的なGOEとなる
・起点となるプラス面のGOEはガイドラインの項目を考慮しなければいけない。GOEの+1~+3に対する項目数はジャッジの裁量によるが、一般的には以下を推奨する。
+1は2項目、+2は4項目、+3は6項目以上が当てはまること

【プラスのガイドライン項目】
1)スピン中の回転速度あるいは回転速度の増加が十分
2)すばやくスピンの軸をとることができる
3)全ての姿勢でのバランスのとれた回転数
4)規定回転数を明らかに超えた回転
5)良い、力強い姿勢(フライング・スピンの場合には高さ、空中/着氷姿勢を含む)
6)独創的でオリジナリティがある
7)全局面でのコントロールが十分
8)音楽構造に要素が合っている

P14
【エラーに対する引き下げ】
・(SPの場合)規定された空中姿勢がとれていない(フライングスピン) -1から-2
・転倒 -3
・両手がタッチ・ダウン -2
・フリー・フットまたは片手がタッチ・ダウン -1から-2
・必須回転数に満たない -1から-2
・フライングスピンでの正しくない踏み切り、着氷 -1から-2
・拙劣な/ぎこちない、美しさを損ねる姿勢 -1から-3
・軸の流れ -1から-3
・回転速度が遅い、遅くなる -1から-3
・足換えが拙劣(回転方向の転換時を除く、入/出のカーブを含む) -1から-3
・フライングが劣る(フライングスピンまたはフライングエントリー) -1から-3



このCSSp、私はファンの贔屓目を抜きにしても、プラスの1)2)3)5)7)8)の6項目が当てはまるのではないかと思いました。
それほどにスピンの速さ、美しさ、コントロール力がずば抜けているからです。
ただ、SFでちょっと位置がブレているので、軽微な「軸の流れ」というエラーと見ると-1が当てはまるかもしれません。
あるいはマイナスするほどのエラーではなく、単に「7)全局面でのコントロールが十分」が当てはまらないだけかもしれません。

1)2)3)5)7)8)の6項目当てはまり、エラーは重要視するほどではないと見ると3
1)2)3)5)7)8)の6項目当てはまり、軽微な「軸の流れ」のエラーと見ると3-1=2
1)2)3)5)8)の5項目と見ると2
推測ですが、こんなふうに評価されたのでしょうか?

2をつけたジャッジが多いですが、こうして見るとうなずけますね。
3をつけたジャッジについては、プラス面を積極的に評価することというガイドラインから見れば妥当ではないでしょうか。
いずれにしても上下カットで中心値の平均が取られているので、評価の偏りがあっても是正されています。
このスピンの出来でこのGOEは決して大盤振る舞いではないでしょう。

二つ目のスピンに行きましょう。FCSp4(フライングキャメルスピン)、跳んで入るキャメルスピンです。

FCSp4
レベル1:難しいフライングの入り方

バタフライという難しいフライングで入ります。
蝶が羽ばたくように空中で足を動かします。
お腹が氷と平行になるのが特徴。

fcsp1


着氷後、ただちにキャメル基本形を取り、2回転します。
この時点でようやく「難しいフライングの入り方」でレベルが獲れます。
特筆すべきは、着氷時に衝撃をうまく吸収し、バランスを崩さないですぐにキャメル姿勢に持っていくコントロール力です。

fcsp2

a)はっきりとわかるジャンプを行うこと。b)着氷後、最初の2回転以内に基本姿勢に達し、その姿勢に最初に達した瞬間から、その姿勢を2回転保持しなければならない。記号“V”は、これら要件のうち1つまたは両方の項目が満たされなかったことを示している。(テクニカルパネルハンドブックP14「フライング・スピンおよびフライング・エントリーのあらゆるスピン:着氷姿勢」より)
※羽生選手はミスをしていないので、ここで言う記号“V”は関係ありません。


レベル2:難ポジション(CU)

fcsp3

肩のラインが氷と垂直よりさらに上にひねったCU(キャメルアップワード)という難ポジションで2回転します。天井を仰ぎ見るような姿勢です。
これでレベルが一つ獲れます。


レベル3:難ポジション(CS)

肩のラインを氷と垂直にひねり、キャッチフットしたCS(キャメルサイドウェイズ)という難ポジションで2回転します。いわゆるドーナツスピンですね。
これでレベルが一つ獲れます。

fcsp4


レベル4:8回転

上の姿勢のまま8回転に達するまで回ります。これでレベルが一つ獲れます。

なお、8回転する間、姿勢や軸足やエッジを変更してはいけません。8回転でレベルが獲れる姿勢は、キャメルとレイバックは基本形でも難ポジションでもOKで、アップライトとシットと非基本姿勢は難ポジションのみです。※非基本姿勢はコンビネーションにおいてのみ。

このスピンの動画はこちら→Yuzuru Hanyu SP+kiss&cry Autumn Classic International 2015



三つ目、最後のスピンです。CCoSp3p4(チェンジフットコンビネーションスピン 3基本姿勢)、足換えありの3つ基本姿勢が入ったコンビネーションスピン。スピンの中で一番基礎点が高いです。レベル4なら3.5

CCoSp3p4
レベル1:チェンジエッジ

キャメル基本形で2回転
その後、チェンジエッジしています(かかとを先頭に回っていたのが、つま先が先頭に変わる)
そこから2回転

ccosp2

2回転、2回転と来たのでお気づきの方もいるかもしれませんが、チェンジエッジの前後には2回転ずつ必要です。
片方のエッジで2回転した後、もう片方のエッジで2回転。これが達成できて初めてレベルが獲れます。

また、認められる姿勢はシット(バック・インサイドからフォア・アウトサイドのみ)、キャメル、レイバック、ビールマンで、アップライトと非基本姿勢でチェンジエッジをしてもレベルは獲れません(テクニカルパネルハンドブックP16「明確なエッジの変更」より)。


レベル2:難ポジション(UF)

上体を前に倒したUF(アップライトフォワード)という難ポジションで2回転してレベルを一つ獲っています。
この姿勢は通称「A字スピン」。

ccosp3


ここで軸足を左から右へ換えます。足換えありのスピンでレベルが獲れるのは片足につき二つずつでしたね。
スムーズな足換えも評価の対象となります。

ccosp4


三つの基本姿勢を入れるという要件を満たすために、ここでシット姿勢を入れます。難ポジションでなくてもOKなので、ここでは基本形です。

ccosp5


レベル3:難ポジション(NBP)

NBP(非基本姿勢)の難ポジションで2回転してレベルを一つ獲ります。
アップライトにしては軸足が深く曲がっており、シットにしては腰が高いということで、基本姿勢に分類できない姿勢は非基本姿勢と認定されます。

柔軟性をこれでもかと見せつけた変態ポジションw
海外の解説者だったかな、とても褒めておられた方が何人かいましたね。クレイジーポジションと言ってた方もいました。
プラスのガイドライン「6)独創的でオリジナリティがある」に間違いなく合致すると思います。

ccosp6


レベル4:難ポジション(US)

フリーレッグを後にクロスさせたUS(アップライトストレート)という難ポジションで2回転してレベル一つ獲得。
通称「トンプソン」というポジションです。

ccosp7

最初のキャメル基本形、足換え後のシット基本形、そして最後のアップライトストレートで三つの基本姿勢を入れることができました(基本姿勢を二つ入れるより三つ入れる方が基礎点が高くなります)。

動画はこちら→Yuzuru Hanyu SP+kiss&cry Autumn Classic International 2015

以上、羽生選手のSPのスピンについて書いてみました(FSをスケカナまでに書けるのか!? ^^; )。

羽生選手はジャンプの素晴らしさで語られることが多いですが、スピナーとしても一流です。
難しい入り方をしても、バランスを崩すことがないコントロール力がある。
ただちに軸を取ることができ、しかも軸が細く回転速度が速い。
柔軟性が高いのでポジションが美しくユニークな姿勢も取れる。しかもそれを最初から最後まで崩れることなく維持できる。
ポジションからポジションへの移行がスムーズで速い。

ざっと挙げてみても、これだけの優れた点があります。

ちなみに今回の三つのスピンで得た得点は12.7
4回転フリップを跳んだのと同じくらいの点数です。すげーや(゚▽゚*) ←稔風に

シニア男子になると柔軟性がジュニアや女子より落ちてきます。
難ポジションを明確に取れなかったり、維持できずにレベルを落とす選手も多いです。
また、フライングやチェンジエッジでコントロール力が足りずにバランスを崩す選手もいます。
そんな中で、ビールマンもやってのける柔軟性を持ち、エッジコントロール、ボディコントロールに優れた羽生選手にとっては、スピンは大きな武器と言えるでしょう。

これからも美しく力強いスピンをいろいろ見せてほしいですね(*^^*)
個人的には、パンケーキで両手を広げた鶴のようなスピンが大好き♪
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[ 2015/10/25 ] スピンを楽しもう | TB(-) | CM(4)